(慢性腎臓病に関して)腎臓の数値が増加したら点滴を増やしたほうが良いですか?
食欲がない時は点滴をすべきですか?

ここで言う「点滴」とは大抵の場合、皮下点滴(補液)を指します。

この質問はめちゃくちゃ多いです。

A.点滴は脱水している時だけ!脱水をしていないのに、腎臓の数値が増えないように、食欲が低下したからと言う理由のみで点滴をしていると、過水和によりさまざまな臓器障害を引き起こす恐れがあります。

必要以上に補液を行えば、それは過水和(溢水ともいう)となります。

過水和は、それだけで気分の不快感をもたらすと言われています。

また、過剰に腎血流量を増加し腎臓の尿濃縮機能を破壊します。これを「腎髄質の洗い出し(ウォッシュアウト)」と表現します。これによりさらに尿量が増えてしまいます。

さらに、高血圧を助長し

・脳血管の破綻→脳障害
・網膜血管の破綻→失明
・心筋負荷の増大→心肥大
・腎臓糸球体の負荷増大→腎障害の悪化

などを引き起こします。これらは標的臓器傷害(Target Organ Damage: TOD)と呼びます。

皮下点滴の目的はあくまで

脱水の補正

であり、

腎臓の数値を下げること

ではありません。

腎臓病の子が、脱水無くして上昇した腎数値を下げるためには「透析」をする他無いのです(その様にされている飼い主様もいらっしゃると思いますが、特殊な機械が必要なのです)。

なので、正しくは

「脱水する(した)時に点滴する」

と言うことです。

点滴は水分とミネラルしか入っていませんから、食欲がない時に皮下点滴をしても栄養は入りません。

脱水しているか否かは、診察時には皮膚つまみテストや口腔粘膜の湿り具合を確認することで大雑把に判断いたします。

脱水の評価
5%未満:身体検査上特に異常を認めない
5%:口腔粘膜の乾きはあるが、浅速呼吸や頻脈は無い
7%:軽度〜中等度の皮膚弾力の減少、口腔粘膜の渇き、軽度頻脈
10%:中等度〜重度の皮膚弾力の減少、口腔粘膜の渇き、頻脈、血圧低下
12%:重度の皮膚弾力の減少、口腔粘膜の渇き、ショック状態

そして、脱水しているのであれば水分欠乏量を計算します。

水分欠乏量の計算

水分欠乏量(L)=体重(kg)×脱水率(%)÷100

でもこの計算って、5%未満の脱水は飼い主様が検出することができませんよね。

そのため、1日でその子が摂取した水分量(in)と失った水分量(out)の差を測ってみると、5%未満の脱水を計測することができます。

in=飲水量(ご自宅で測る必要あり)
out=尿量(ご自宅で測る必要あり)+不感蒸泄量(13~20mL/kg)

out-in=脱水量(必要な点滴量(ml))

1日に飲んだ水の量よりも、出ていく水の量が多ければその分だけ点滴すべきだと言えます。

腎臓病の子は、飲んだ量以上に排泄されてしまうから脱水するのです。

簡易的に、食事が十分摂取できている場合は以下の様な計算もできます

脱水量(必要な点滴量(ml))=昨日の体重(kg)−今日の体重(kg)

良かれと思って点滴を行い、かえって体調を悪化させない様に気をつけましょう!

【追記】

この記事に関しまして、全国からお問合せがございます。

そのため、最新のガイドラインからもう少し深掘りしてみようと思います。

2024年にAAHA(全米動物病院協会)より皮下点滴のガイドライン(2024 AAHA Fluid Therapy Guidelines for Dogs and Cats)が出ています。それによると皮下点滴の推奨される用法用量として以下の記載があります。

適切な皮下点滴の量と頻度
適切な皮下点滴の量と頻度
推奨される投与量
20-30 mL/kgを1日1-2回が一般的な推奨量です
例:体重5kgの猫の場合、1回あたり100-150 mL
投与部位と最大量
1ヶ所あたりの最大量は10-20 mL/kg
皮膚の弾力性に応じて複数箇所に分けて投与
重要なポイント
• 個々のペットの状態(年齢、体重、疾患)に合わせた調整が必要
• 獣医師の指示に従い、過剰投与を避ける
• 心臓や腎臓に問題がある場合は特に注意が必要
輸液バッグと点滴量の目安を示すイラスト
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そしてこれを超えて過剰に輸液した場合

腎臓の浮腫形成 これらの生理的変化により、過剰な水分が全身の間質空間に蓄積し、全身性浮腫を引き起こします。特に、腎臓の周囲や内部の組織に水分が溜まることで腎臓の浮腫が生じます。

腎血流の低下と糸球体濾過率(GFR)の減少 腎臓の浮腫は、腎臓の組織が圧迫されることにつながり、その結果、腎臓への血流が減少し、糸球体濾過率(GFR)が低下します。GFRの低下は腎臓の機能障害の直接的な兆候であり、腎臓が老廃物や過剰な水分を適切にろ過・排泄する能力を損ないます。

また、腎機能がすでに低下している患者、特に乏尿性または無尿性の腎不全患者は、余分な体液を効果的に排泄できないため、輸液過剰のリスクが著しく高まります。このような患者では、わずかな過剰輸液でも重篤な腎臓への悪影響が生じる可能性があります。

との記載でした。

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